不思議な『魔法』


紅魔館と呼ばれる悪魔の屋敷、その広大な図書館の一角で…

魔理沙「また来たぜ〜…って、今日もまた居ないのか?」

奇妙な魔法使い、霧雨魔理沙がその生粋の魔女の元を訪れるようになってしばらくが経つ。
魔理沙が来るときには魔女は必ず居たし、それが彼女にとっては当たり前だった。
『彼女』とは、魔理沙もそうだし、魔女自身もそうである。
その魔女自身図書館から離れるなどと言う考えは微塵もないし、それは魔理沙も承知していた。
…そのはずだった。

魔理沙「なんだかな…別にいいんだけど。折角来たのに居ないってのも…」

それはそれでつまらないな…と言おうとして、思わず口をつぐむ。
何を考えてるんだ、私は?ここへはただ本を読みにやって来てるだけだぜ?
そう思いながらとりあえず手近な本を手に取る。

10分…20分…30分……
ページをめくる音以外、まったくの無音の世界が広がって行った。
この図書館は元来人気がない。
館の中には妖怪の類こそ沢山居るが、殆どが使用人階級であり日中本をよむ暇はない。
かといって館の主は好んで図書館に足を運ぶ程には大人でない。
そして、図書館の主である100歳少女は何故か留守。
あと一人、図書館就きの小悪魔が居るはずなのだが…彼女は来る最中に道端であった限りだ。
『頼まれて、お使いに行く』と言っていたが…何を誰に頼まれたのか聞くのを失念していた。
まぁともかく、この広大な図書館の中で生あるものは現在たった一人である。

魔理沙「……ふぁぁ…………」

つと欠伸をする。昨晩は遅くまでかかる魔道実験をしていたのだから、眠くもなるはずだ。
…それでも1時間以上無音の部屋で集中して本を読めたのは、彼女の特性と言うべきか。
いつもならここらでパチュリーをからかって遊ぶんだけどな…
そう思いながら魔理沙は今まで読んでいた魔道書に目を落とす。

…………あれ?
今まで私は何の本を読んでいたんだっけ?
………………………
内容はわかる。思い出せる。…が、いまいちすっきりしない。
それが記憶としてはしっかり頭に入っているのに、全然知識として収納されていないのだ。
…やっぱり、疲れてたのか?
ぼうっとする頭でそう思いながら、魔理沙は座っていた椅子と他の椅子を組み合わせて即席のベッドを作ると、そこに仰向けに寝転んだ。
やっぱ、疲れてたんだよな……なんだか気持ちがいいぜ……そう思えるほど、意識はすんなりと暗い淵へ沈んでいった。

 

パチュリー「…偶にはこう言うのもいいかしらね。」

図書館の主、パチュリー・ノーレッジが変わった来訪者を受けるようになってから、しばらく経つ。
図書館は本来静かで落ち着く場所のはずなのに、あいつが来てから随分変わってしまった。
この間など、読んでいた魔道書に書かれた召喚の実験を図書館の中で行ってしまった。
結果は言うに及ばず、現れた魑魅魍魎のおかげで貴重な時間が半日は潰されてしまった。
その挙句、あいつの言った言葉はこれである。

「悪い悪い、つい読んでたら手が動いちまったぜ。」

…他人を小馬鹿にしているとしか思えない発言。
その上こちらの都合などお構いなしに毎日のようにやって来て、本を強奪していく。
本当に毎日毎日やって来てはこちらのペースを乱してくれる。
姿を見せない日には何かがあったんじゃないかと余計な心配をしなければいけないくらい…
何を考えてるのかしら?私は。
あんな奴、姿を見せなくなったら安心して本が読めるじゃない。
ともかく、あいつにかき回されないようにしたい…そう思って今日はこんな手を打ってみた。


魔理沙「また来たぜ〜…って、今日もまた居ないのか?」

ふふ…大丈夫、気付かれてない。
イナエミの新芽から作り出した、姿を消す魔法の粉。
図書館に入って開口一番私を探すとはいい度胸…だけど、私の姿に気付くはずなんてない。
伊達に100年魔女をやってないんだから、気配の消し方で気付かれる心配もない。

魔理沙「なんだかな…別にいいんだけど。折角来たのに居ないってのも…」

居ないってのも…の後が気になったけれど、気付かれないように静かにする。
あいつは本を手にとって…そして、私の目の前の席に座った。
………え?

内心焦って心を乱してしまったけれど、まだ気付かれた様子はない。
魔理沙は一心不乱に本と格闘している。
…なんでこの席に…………?
……しまった。
よく考えてみれば、この席はいつもあいつが座る席の反対側。
あいつはいつもの席に座っただけ。
それで、私も………

10分…20分…30分……
まさか目の前の席に魔理沙が来るとは思ってなかった。
幾ら私でも、この距離で人間とは言え魔女をやってる相手に気付かれないかは自信がなかった。
いつもならすぐに過ぎてしまう時間なのに、今日は本当にもどかしかった。

魔理沙の手が空中に印を切るように動く。
私ははっとしてその手の動きを追う…けれど、幸い印が完成する前に手の動きは止まった。
…仮に完成していたら、暴風か落雷かのどちらかを呼んでいた印である。
普段なら、危ないじゃない!とでも言うところだけれど、今日はそうも行かない。
文句を言う代わりに魔理沙の顔をじっと睨みつける。
勿論、向こう側が気付くはずはないが……別の意味ではっとしてしまった。

…格好よかった。
何故かはわからない。けれど、見惚れてしまった。
いつも見せる冗談めかした笑顔ではない。真剣に本を見詰め、その内容を自分のものにしようとしている。
その眼差しが、瞳に宿る輝きが、パチュリーから何かを奪った。

魔理沙が一瞬本から目を上げる。
見えるはずのないパチュリーと目が合う…ように見えた。
真顔の魔理沙と正面向き合う事になってしまったパチュリーの見えない両頬に、さっと朱がさした。

…私は?
急いで視線をそらせながら、気持ちを落ち着けるように考えを巡らせる。
私は、いつもどうやって本を読んでるの?
図書館に篭り、本と共に在った私。その私はどのように本と過ごしたの?
答え。ただそこにある本を読んでいる。この本が終われば次の本。次の本が終わればその次の本。
読んで得た知識を何かに使う事もなく…内容を記憶する事も、怠っていたかも知れない。


パチュリー「私は………」

思わず、呟いた。
目の前の魔法使いには、気付かれなかった…気付いて欲しかった。
私はこの100年余り、何をして過ごしていたの?
急に、積年の心の空白が襲ってきた。
それは、今までけして自覚する事のなかった心である。

―孤独―

館の主が友人として接してくれる、その事とはまた違う…本当の意味での、同じ趣味を持った仲間。
上手く表現は出来ない…けれど、求める相手が、目の前に居る気がした。
自分にはないものを持っている。そう言う、相手が…

 

魔理沙「……ふぁぁ…………」

パチュリーはふと自分の置かれている状況を確認した。
そう、目の前では魔理沙がようやく集中力を切らしたのか、欠伸をしているところだった。
これで、魔理沙も今日のところは帰るのだろうか…と、思った矢先。


パチュリー「きゃっ!」

魔理沙がパチュリーの座っている椅子も含め…周囲の椅子を並べ始めた。
パチュリーが座っていても、つい声を上げてしまっても魔理沙は一向気付かない様子。
それもそのはず、魔理沙の横顔はすっかり眠そうな状態でぼうっとしていた。
ずっと図書館に居たパチュリーにも、椅子をベッドにするこの習慣はなかったらしい。
おおよそ並べ終わって、魔理沙がその即席ベッドに横になる。

パチュリー「ちょ、ちょっと……!」

もはや憚らず声をあげて抗議するパチュリー。
…努力むなしく魔理沙にその声は届かず、魔理沙はそのまま眠る事となってしまった……パチュリーの膝枕で。


……………………………

先ほどとは違って、今度は幼子のような寝顔を見せる魔理沙。膝の上に、暖かい心地も加わる。
そもそもが人間としてはまだ幼いが…その顔に、今度はパチュリーはつい悪戯心を覚える。
魔理沙は一向目覚める気配もない。
そろそろ魔法の効き目も切れる頃合だから…魔理沙が目覚めたら、きっと驚くだろうな…とそんなことを考えながら。
魔法が切れてしまう前に、これくらいは……

そうっと見えないはずの顔を、魔理沙の顔に近づける。
目を閉じて。眠っている相手の唇に。自分の唇を近づけて……

魔理沙「眠ってる相手から奪おうなんて、虫が良すぎるだろ?」

はっと目を開いた瞬間、唇が触れた。
瞬間、一つの魔法が解けて、新しい魔法が始まった……

 


夕刻、小悪魔はお使いのイナエミの新芽を届けようと、図書館に入った。
…が、パチュリー曰く、『ありがとう。でも、もう使わないでいいわ』との事だった。
よくはわからないが、事態は解決したらしい。
でも、どうしてだろう。あんなに嬉しそうな姿を見たのは初めてだ……
よくわからないが、きっととてもいいことでもあったのだろうと思っておいた。

何はともあれ、今日もきっといい日だったのだろう。

 

 

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すみません、初めて公の場にSSと言うものを出します。
もっとも、それ以前にもっと長い文章系の作品を出した人間ではあるのですが。

パチュリー支援です。支援になってください。
むしろパチュリー×魔理沙と言った感じですが。
即興で書いたのでかなりあやしい部分がありますが、お祭の雰囲気で流していただけると幸いです。


あと四時間を切った…!

20:01 2003/11/15 KOR




はい、最萌時の文章をそのまま出す事にしました。
推敲すると不安な所も沢山あったのですが…やはり自分の原点をそのままにしたいな、と思いまして。

このサイトでは文章発表は初めてですね…まぁ、SRCシナリオは全部文章とも言えますが。
すし〜さんの最萌観戦記でお褒めの言葉を頂きまして、本当に有難く存じました。

そのうち頑張って、更に書ける様になりたいものです。

2003/11/20 あぷらじExtraを聞きながら。


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