妖夢…妖夢……
「……ん…………?」
薄明かりの中、私はぼんやりと目を開ける。
私の半身は幻なのだから、目を開けることにどれだけの意味があるのかは置いておくとして。
白玉楼の自室にて、私はしばしの眠りから目を覚ました。
「幽々子様…?」静かな部屋の中、まどろんだ時。それでも判る。
紛う事なき、私の主。西行寺幽々子様の声が聞こえた。
…何処から?聞き間違いであろう筈も、幻であろう筈もない。
確かに幽々子様は霊体だが、今はそう言う議論をしている場合ではない。
愛用の双剣を手に取り、そして部屋を発つ。
確かに声はしたが、気配はない。主の姿を求め、自室を発ち広大な庭へと彷徨う。月明かりの庭に、半幽半人の剣士が彷徨う。
何処に居るのか、気配を探りつつ余りに広い庭を歩む。
辺りに漂う幽気と冥気がその頬を染め、銀に輝く刃と髪を湿らす。
寝室から出た時の寝巻きのままではあったが、その周囲には気迫の立ち込めるのが判る。そんな妖夢の脳裏に、ある不安がよぎる。
あってはならない、一つの可能性…
仮に主である幽々子が何者かに害されたとするならば……
頭を振ってその意識を振り飛ばす。精神の鍛錬が足りない。
寝起きとは言え、この様に精神を乱すとはあってはならない事である。
気を引き締め、妖夢は引き寄せられるかのように西行妖の下へ向かう。…何故だろうか。
わからない。
ただ、其処に居るとしか思えなかった。
それが、運命であると言うのだろうか…………見上げるほどの大木。
西行妖…その木の肌からは月の光を浴びて強い妖気が流れ出るのがわかる。
いや、妖気と言うよりは長き日々を生きた威厳のようなもの…
身を刺すような感覚に、一層気を引き締める。
――――――――つぅ、と―――
「ばあぁっ!!」「ぴやぁぁぁぁっ!?!?」
「どう?驚いたかしら?」…見ればそこには、白い布切れを頭からかぶった幽霊嬢……幽々子が居た。
「ゆゆ、ゆ、ゆ、ゆ、ゆゆゆゆゆゆゆゆこさまっ!?!?」
「どう、妖夢?ちょっとカリスマが足りないって言うことでお化けっぽくしてみたのよ〜」満面の笑みで答える主と、完全に平静を失った従者。
月の明かりの下でそれは本当に滑稽というかなんというか。「………ふ……」
「ふ?」
「ふえぇぇぇぇん、ゆゆこさま、それはゆーれいとおばけをまちがってるんですよぉ〜」
「…ちょっと、ようむ?」
「ゆゆこさま、ひどいよぉぉぉ…ふえぇぇぇぇぇん………」緊張の糸が切れた。
それだけに、妖夢の涙を抑えるものは何もない。
いきなり驚かせられた事、でもなにより主に逢えたこと。
子供のように泣き続ける妖夢の姿。
その姿を見ながら、幽々子はそっと思うのだった。「あ〜、もう、妖夢ったらかわいいっ!」
「声に出てますってば〜〜〜」
「…………従者の運命を操って欲しいと言われたけれど、まさかこんな事を考えてるとはね…
今度は、咲夜でやってみようかしら?」紅い悪魔は白玉楼の片隅で、主従を見つめつつ密かな笑みを浮かべたのだという。
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かいたひと:KOR@妖夢支援〜〜♪
と言う事でして、あぷらじでの第一回東方出鱈目コンテスト妖夢支援テキストです。
お題は『いじられやすいキャラ』でした。
……まぁ、その。いじられキャラってこんな感じでしょうか。時間がないときに書きましたが、何とか上手く纏まったような気もします。
纏まってないような気もします。色々反省点があるのは確かです。が、まぁ。この状況で良く頑張った、とだけは自分を褒めてもいいかなぁとか思わさせていただきます。
2004/01/26 あぷらじ終わった後で。